「営業メール、また今月もゼロ通か」という焦り

Web制作会社で働いていると、案件の合間に地味に重くのしかかる仕事がある。新規開拓の営業メールだ。

うちの会社は紹介案件が中心で、いわゆる「テレアポ」や「飛び込み営業」の文化がない。その代わり、繁忙期の反動で案件が空く時期があると、急に「新規開拓もやっておいて」と振られる。ホームページが何年も更新されていない地元の店舗や士業事務所を自分で探し、1件ずつ手作業で営業メールを書く。1通書くのに20〜30分かかり、月に10通も送れば良い方だった。

「これ、ChatGPTに書かせれば量産できるのでは」と思ったのが今回の発端だ。結論から言うと、「メール文面を作ること」自体はChatGPTに任せて何の問題もなかった。ただし、「返信が来るかどうか」だけは、結局自分で試行錯誤するしかなかった。この記事では、実際に使ったプロンプトと、送ってみて分かった落とし穴を共有する。

正直「文章を書くのが面倒」というより「毎回同じ言い回しになっていないか気にするのが面倒」だったんですよね……

やったこと:候補リスト作成から文面生成までをAIで効率化する

手順1: 送信対象リストを自分で作る(ここはAIに任せていない)

まず、地元の商店街や士業事務所のサイトを自分の目で1件ずつ確認し、「サイトが5年以上更新されていなそう」「スマホ表示が崩れている」「そもそも常時SSL化されていない」といった、明らかに困っていそうな候補だけをリストアップした。ここは意図的にAIに任せなかった。実在する企業の内部事情をAIに推測させると、後述する通り誤った決めつけをそのまま文面に書いてしまうリスクがあったからだ。

手順2: ChatGPTに営業メールのたたき台を書かせる

候補リストができた段階で、ChatGPT(GPT-5.6)に投げたプロンプトはこのくらいの内容だった。

「Web制作会社の担当者として、地元の中小企業に送る新規開拓の営業メールの雛形を作ってください。相手はホームページの運用に困っていそうな会社です。売り込み感を出さず、まずは無料の簡易診断を提案する内容にしてください。差し込み変数は{{company_name}}や{{issue_point}}のような形式にしてください」

ChatGPTは、件名・書き出し・提案内容・締めの4パートに分かれた雛形を数パターン、一発で返してきた。「それらしい営業メールの型」を作る作業自体は、驚くほどあっさり終わった。

手順3: 差し込み変数でパーソナライズする

雛形の{{issue_point}}部分に、手順1で自分の目で確認した「スマホ表示が崩れている」などの具体的な気づきを1件ずつ手作業で埋め込み、50件分のメールを準備した。ここも文面の組み立てはChatGPTに任せたが、埋め込む中身(本当にその会社に当てはまる指摘か)は自分で確認するようにした。

ここまでは「もっと早く量産すればよかった」と思うくらいスムーズでした

つまずいたのは「返信率」と「法令面」の2つだった

50件送ってみて、返信が来たのは3件。悪くない数字に見えるかもしれないが、実際にはここに至るまで3つの壁にぶつかった。

**1つ目は「テンプレ感」がそのまま伝わったこと。**最初の10件は差し込み変数の中身を薄く済ませてしまい(「サイトが古いようにお見受けします」程度)、返信はゼロだった。AIが作った”それらしい文章”は、指摘の中身が抽象的だと一発で「量産メール」だと見抜かれるということを、このとき初めて実感した。具体的な指摘(「スマホで見ると電話番号のリンクが押せない状態でした」など)に差し替えてから、ようやく反応が出始めた。

**2つ目はAIによる決めつけの誤爆リスク。**試しにAIに「このサイトの弱点を推測して」と丸ごと分析させたところ、実際には最近リニューアルされていたサイトを「更新されていなそう」と決めつけた文面を作ってしまった。もしこれを確認せずに送っていたら、一発で信頼を失っていたはずだ。相手の状況をAIに”推測”させたまま送るのは、営業メールにおいて一番やってはいけないパターンだと痛感した。

3つ目は特定電子メール法まわりの確認漏れ。ChatGPTが作った雛形には、最初は配信停止(オプトアウト)の連絡先明記がなかった。日本国内向けの広告・宣伝メールには、送信者情報の表示や受信拒否の通知先を明記する義務がある。「魅力的な文面を作ること」と「法令上守るべき表示義務を満たすこと」は別の話であり、後者はAIが自主的に配慮してくれるとは限らないため、テンプレートに固定文言として自分で追加する必要があった。

この経験から、今は文面の「型」と「言い回しのバリエーション」はChatGPTに任せるが、「相手固有の指摘内容」と「法令上必要な表示」は必ず自分で確認・追記する運用に落ち着いている。

「AIに任せていい部分」と「自分でやるべき部分」の境界線

今回の経験から見えた線引きは、次のようになる。

  • メールの型・言い回しのバリエーション作成 → AIに任せてよい。同じ文面を使い回すより、パターンを複数用意できる分むしろ質が上がる
  • 相手企業の課題の特定 → AIに”推測”させず、自分の目で確認した事実だけを差し込む
  • 法令上の表示義務(送信者情報・配信停止先など) → AIが入れ忘れることを前提に、固定文言としてテンプレートに組み込んでおく
  • 返信が来た後の個別対応 → ここからは完全に人間の仕事。定型文で返すと一気に温度感が下がる

つまり、「文章を大量に作れること」と「相手に響く営業ができること」は別の話であり、後者の核心部分は結局のところ人間が担うしかない、というのが今回の結論だ。

まとめ:これから営業メールをAIで効率化する人へのチェックリスト

  • 送信対象リストは自分の目で確認したものだけを使い、AIに”推測”で選ばせない
  • 差し込み変数には抽象的な指摘ではなく、具体的で相手固有の気づきを入れる
  • 特定電子メール法に基づく送信者情報・配信停止先の表示は、固定文言としてテンプレートに組み込む
  • AIに任せるのは「文面の型」まで。「誰に何を指摘するか」は自分の判断を通す
  • 返信が来てからのやり取りはテンプレートを離れ、必ず個別に書く

新規開拓の営業メールは、AIによる効率化の効果が一番出やすい領域であると同時に、雑にやると信頼を一発で失う領域でもある。だからこそ、量産できる部分と人が握っておくべき部分を、最初にはっきり分けておくことが返信率を上げる近道だと感じている。