「マニュアルを渡しても読んでもらえない」という慢性的な悩み
Web制作会社で働いていると、納品後にほぼ必ず発生する仕事がある。クライアントへの操作マニュアル作成だ。
以前この場でも書いたが、ChatGPTにテキストのマニュアルを下書きさせる運用はすでに定着していた(記事末尾の関連記事も参照)。ただし、それでも解決しなかった問題が一つあった。PDFやWordのマニュアルを送っても、そもそも開いて読んでもらえないケースが一定数あったのだ。特に年配の店舗オーナーや、パソコン作業に慣れていない担当者ほどこの傾向が強く、結局「もう一回教えてください」という同じ質問の電話を何度も受ける羽目になっていた。
「文字で読まないなら、動画にしてしまえばいいのでは」と思い立ち、AIナレーションツール「Vrew」を使って操作マニュアルの動画化を試した。結論から言うと、「画面録画に音声とテロップを乗せて動画マニュアルを量産すること」自体は驚くほど簡単だった。ただし、「専門用語や管理画面固有の名称を正しく読み上げさせること」だけは、結局自分の耳で1本ずつ確認して直すしかなかった。この記事では、実際の手順とつまずいたポイントを共有する。
電話口で「その、右上の……なんでしたっけ」と毎回説明するの、地味に消耗するんですよね……
やったこと:画面録画からAIナレーション動画にするまでの手順
手順1: 操作画面をそのまま録画する(ここはAIに任せていない)
まず、クライアントが実際に使う管理画面の操作を、無音のままそのまま画面録画した。カーソルの動きや遷移するページはこちらが把握している実際の操作そのままで、AIに「それらしい操作」を想像で作らせることはしていない。ここを曖昧にすると、後述する読み上げの精度以前に、そもそも手順自体が実際の画面と食い違ってしまうリスクがあるからだ。
手順2: ナレーション原稿をChatGPTに書かせる
録画した操作の流れをもとに、ChatGPT(GPT-5.6)に投げたプロンプトはこのくらいの内容だった。
「以下の操作手順をもとに、動画マニュアルのナレーション原稿を作ってください。話し相手はパソコン操作に不慣れな50〜60代の店舗経営者です。専門用語は極力避け、1文を短く区切ってください。手順:1. 管理画面にログインする 2. 左メニューの『お知らせ投稿』を開く 3.『新規追加』ボタンを押す(以下略)」
ChatGPTは、手順ごとに区切られた短文のナレーション原稿を一発で返してきた。「専門用語を避けた分かりやすい言い回しに書き換える作業」自体は、想像していたより短時間で終わった。
手順3: Vrewに原稿を読み込ませて音声・字幕を自動生成する
ナレーション原稿をVrewに貼り付け、AI音声(日本語の女性ナレーター音声)を選んで音声合成、字幕も自動生成させた。手作業だった場合、ナレーション収録・字幕入れだけで半日仕事だったところが、この工程は1本あたり10分もかからず終わった。
ここまでは「なんで今までやらなかったんだろう」と思うくらいスムーズでした
つまずいたのは「専門用語の読み上げ」と「間の取り方」の2つだった
書き出した動画を最初から最後まで自分の耳で確認して、初めて気づいた問題が2つあった。
**1つ目は、管理画面固有の名称や英字・記号混じりの表記が誤読されたこと。**例えば「CTAボタン」は「シーティーエー」ではなく「シータ」のように読まれ、「URL」は「ゆーあーるえる」で問題なかったが、社内独自の機能名「お知らせBOX」は「おしらせビーオーエックス」と不自然な区切りで読まれてしまった。AIナレーションは一般的な単語の読み上げ精度は高いが、造語や固有名称になると誤読・不自然な区切りが一定確率で発生することを、このとき初めて実感した。Vrewには単語ごとに読み方を個別登録する機能があり、誤読した単語をひらがな表記に置き換えることでようやく解決した。
**2つ目は、間の取り方が実際の操作テンポと合っていなかったこと。**原稿通りに読み上げるだけなので、「ボタンを押します」の直後に次の説明が始まってしまい、視聴者が実際にクリックする時間が確保されていなかった。ナレーションの正確さと、視聴者が実際に手を動かせる「間」が確保されているかは、まったく別の問題だと痛感した。各手順の後に1〜2秒の無音区間を手動で追加し、映像の切り替えタイミングも合わせて調整する必要があった。
この経験から、今は**「原稿作成」と「音声・字幕の自動生成」まではAIに任せるが、「固有名称の読み方登録」と「操作テンポに合わせた間の調整」は必ず1本ずつ人力で確認する**運用に落ち着いている。
「AIに任せていい部分」と「自分の耳で確認すべき部分」の境界線
今回の経験から見えた線引きは、次のようになる。
- ナレーション原稿の作成・平易な言い回しへの書き換え → AIに任せてよい。専門用語を避ける配慮も的確にこなしてくれる
- 音声合成・字幕の自動生成 → AIに任せてよい。手作業に比べて圧倒的に速い
- 管理画面固有の名称・造語の読み方 → 誤読を前提に、1本ずつ耳で確認して単語登録で直す
- 操作を実際に真似できる「間」の調整 → 原稿の正しさとは別物として、視聴者目線で手動調整する
つまり、「動画マニュアルを量産できること」と「クライアントが実際に操作を真似できる動画になっていること」は別の話であり、後者を保証するのは結局のところ、作った本人が最後まで自分の耳と目で確認する工程だ、というのが今回の結論だ。
まとめ:これから操作マニュアルを動画化する人へのチェックリスト
- 操作画面の録画は実際の操作そのままを使い、AIに手順を想像で作らせない
- ナレーション原稿は専門用語を避けた短文にするようChatGPTに具体的に指示する
- 音声・字幕の自動生成はAIツールに任せてよいが、書き出し後に必ず最初から最後まで自分の耳で通し確認する
- 管理画面固有の名称・造語は誤読される前提で、読み方を個別登録する
- 各手順の後に、視聴者が実際に操作できるだけの「間」を手動で確保する
操作マニュアルの動画化は、テキストマニュアルが読まれないという慢性的な悩みを解決できる一方、雑に量産すると「読まれないPDF」が「最後まで見られない動画」に置き換わるだけに終わる。だからこそ、AIに任せる部分と、公開前に必ず人力で通し確認する部分を最初に線引きしておくことが、結局は問い合わせの電話を減らす近道だと感じている。
